Kz Guitar Works

English

Kz Pick Up Technical Review part.1 [KGW T-S]編

更新日:2021年6月23日

タグ: ,

Kz Pick Up Technical Review part.1 [KGW T-S]編

Kz Guitar Worksの大きな特徴のひとつが、オリジナルのピックアップにあります。通常はカバーに覆われ、内部を見ることはできません。しかし、今回はカバーを取り外し、内部構造をクローズアップ。また、解説を有名音楽雑誌で知られるライターの關野 淳 氏に依頼しました。

その第一回が『KGW T-S』です。『KGW T-S』は弊社が製作したピックアップで、2021年4月に登場しました。本製品はブライアンのレッド・スペシャルに搭載されていたピックアップが元であり、構造自体はバーンズ製トライ・ソニックを踏襲しています。さらに、ブライアンの実機の検証とP.U.の測定データを反映することで、よりブライアンのレッド・スペシャルに近いサウンドを生み出します。今回は、ピックアップの歴史的背景を含めて解説します。

 


 

■『KGW T-S』は『バーンズ・トライ・ソニック・ピックアップ』を再現

 

KGW T-Sは、ブライアン・メイのレッド・スペシャル“RS”に組み込まれている60年代初頭のバーンズ・トライソニック・ピックアップを再現したものである。その背景には、Kz ギター・ワークスの伊集院とブライアン・メイ本人、そしてブライアンのレッド・スペシャル修復を行ったグレッグ・フライヤーとの深い結びつきがある。

 

 

■『バーンズ・トライソニック・ピックアップ』が持っていた独自性を継承

 

◇フェライト・マグネットと磁界コントロール用ヨーク

 

ジム・バーンズによって開発されたこのピックアップは、ギブソン、フェンダーといったアメリカ製のピックアップとは大きく異る独自のスペックで作られたシングルコイル・ピックアップ。年代/機種によって幾つものバリエーションがある中でブライアンが手にしたのは、3/4弦の間に強い磁界を作り出すために高音/低音に別れた2つの厚いフェライト・マグネットを中央で合わせてバー・ポールピースとして使用、更にマグネット底部から側面にかけてピックアップを囲っている溝型のマウント・プレートは、スティール製ヨークとして磁界をコントロールしている。現行トライソニックの磁力はかなり強力だが、KGW T-Sではヴィンテージ・トライソニックや“RS”の磁力を測定した値に基づいて、特殊な方法でフェライト・マグネットをデガウス(減磁)している。

 

▲『KGW T-S』のカバーを外した状態。マグネットは2つのバータイプのフェライト・マグネットで、周囲を空芯(エア)コイルが囲んでいる。また、マグネットとコイルは凹型のヨークに取り付けられている。

◇空芯(エア)のコイル

 

驚くことにトライソニック・ピックアップにはボビンは無く、トランス等に用いられるドーナッツ状に巻かれた空芯(エア)コイルが、マグネット・ポールピースの外側にはめ込まれている。コイルにはテンションが全くかかってはおらず、これは倍音構成を複雑にする要因でもある。また、使用されているコイルは、アメリカの一般的なピックアップ・コイルよりも2段階も細いAWG44ゲージで、ターン数は5-60%程だが、特殊な磁界の影響もあって出力は高い。

 

▲斜めアングルの写真。スティール製のヨークが磁力の方向を制御している。ただし、ネック側P.U.のみニッケル製のダミー・ヨークとなっている。

 

◇唯一無二のサウンド

 

ピックアップのキャラクタは、様々な要因の組み合わせで作られる。特にトライソニックのようなユニークな構造のピックアップは、ひとつの特徴で全体的なピックアップ・トーンを語ることはできない。フェライト・マグネットは強い高音域と大きな出力を生み出し、ヨークによってコントロールされた磁界は、更にボリュームを増すことになる。一方の細いコイルはメロウな低域を生み出し、テンションの弱さやターン数の少なさは高音域と繊細さを生み出す要因で、横に広がったコイル形状はトーンをメロウな方向へと導く。そして、外側に取りつけられたクロム仕上げ(ブラス製)のカバーは、艶のある輪郭を作り出す要素でもある。様々な方向へトーンを導く特徴が複雑に組み合わされることで、トライソニックの唯一無比のキャラクタは作られている。

 

▲オリジナルのピッアップ・カバーとブライアンと同様のラバー・シート。

 

◇ブライアンのギターの測定データに基づいてカスタマイズ

 

ヴィンテージのトライソニックは、経年変化もふくめて個体差が大きいが、KGW T-Sはブライアン・メイ本人の“RS”に組み込まれたピックアップ・データに基づいて製作されている。3個のコイルのターン数は各々10%ほどのばらつきがあるのだが、それがそのまま再現されている。そして、実は“RS”のネック・ピックアップは、トーンへの影響も大きいマグネット・ヨークがブライアン本人の手によって外されているのである。そこでKGW T-Sでは、ブリッジ、ミドル・ピックアップにはオリジナル同様のサイズで作られたスティール製のマグネット・ヨークが組み込まれているが、ネック・ピックアップはニッケル材から作られたダミー・ヨークになっている。

KGW T-Sは、60年代初頭のトライソニックの構造やスペックを再現していることに加えて、ブライアン・メイの“RS”に組み込まれたピックアップの個体的な特徴、マグネットの経年変化、そしてブライアン本人によってモディファイされた様子を全て再現したピックアップなのである。

 

(Text : Jun Sekino )