Kz OneにKahler Tremoloを
搭載する理由
|ギタリストが思うままに操れるビブラート・ユニット
Kz Oneのブリッジには、固定タイプの「T.O.M」、「バー・ブリッジ」。トレモロ・タイプの「シンクロ」「Kahler」の4タイプを用意しています。それらにより、お客様が求めるサウンドと用途でお選びいただけます。
中でもKahlerのトレモロ・ユニットを選べるギターは世界的にも珍しいと思います。また、店頭でKz Oneを試奏したお客様からは「Kahlerを見直した」という声。また、カスタム・ラインではKahler搭載のご指名をいただくことも多いです。
では、お客様たちが、なぜ「Kz OneでKahlerを“見直す”」のでしょう?
今回は、Kz Oneの大きな魅力であるKahlerユニットとKz Oneで取り組んだ改善点について、お話ししましょう。
■80年代に誤解されてしまった不運なKahler
Kahlerのユニットは1980年代はじめに登場しました。その直前の70年代後半にフロイドローズのトレモロユニットが登場し、音楽シーンに一大革命を巻き起こしました。フロイドローズは可動範囲が大きく、ダイナミックに音程変化できます。その反面、ロックナットで弦を押さえ込まなくてはならないなどの音質の問題や弦交換に手間がかかり、メカの調整が面倒などの問題点もありました。
そもそもKahlerとフロイドローズは別の製品ですから、登場した時期が近いというだけが、共通点です。両者の設計思想や使い方は違います。さらにサウンドが違うのも言うまでもありません。
にも関わらず、80年代初めの音楽シーンでは、
・Kahlerにも(性能上、一応可能な)音程がなくなるほどのダイナミックな効果を求めたこと。
・レスポールのようなアーチトップにスタッドを介して後付けされたギターが多いこと。
・当時のマニュアルが曖昧で、マニュアル通りに調整しても適切な調整ができなかったこと。
などが災いして“使えない”という評価が一般的になってしまいました。
設計コンセプトも理解されず、搭載されるギターもちぐはぐ、さらに、間違った調整では、ポテンシャルは出るはずがありません。そして、いつしか市場からも姿を消しました。
しかし、海外の有名ギタリストがKahler搭載ギターを使用したことをきっかけに、2000年代に市場に復活しました。Kahlerが本来“使える”ユニットだったと認知されるまでに、長い遠回りしたことになります。
Kahlerは、性能を理解し、正しい装着方法でギターに取り付ければ、サウンドも良好で、音程感あるアーミングがしやすく、ほぼメンテナンス・フリーと優れた機能があります。
■KGWが考えるKahlerの特徴 / 演奏にニュアンスを、音程感があるビブラート・ユニット
弊社ではKz Oneを2015年に発表しました。その1号機にはKahlerを搭載しています。Kz Oneには現在シンクロ・タイプやT.O.Mタイプもありますので、それらのサウンドや機能がお好きな方は、それらをお選び下さい。しかし、Kz OneはKahlerのメリットや快適さ、サウンドを活かせる世界で唯一のギターと自負しています。
▲最初期のKz One(2015年製) / Kahler搭載を視野に入れて開発しました。
Kzギターが着目しているKahlerの特徴とは下記のようなものです。
[サウンドと奏法]
・シンクロやフロイドローズとは異なるサウンド
・スムースに動かせる機構的な特徴
・音程感を生かす奏法で大変効果的
・必要な時には大きなアーム・ダウンもアップも可能
[機能的特徴]
・ギタリスト自身が快適なアーム回転トルクに調整できる
・オクターブ調整も簡単
・使用しないときには固定できる
・弦交換が簡単
など、です。
中でも最も大きい要素は、“音程感を重視したビブラート・ユニット”という性格でしょう。演奏にニュアンスを付ける表現力とチューニングの安定性では、比肩するユニットがありません。
そして、その滑らかな動きは、プレイヤーの思うままに操れる、触れるのが楽しくなるビブラート・ユニットです。
これがKahlerの本質です。
ただし、Kahler自体はギター用のパーツに過ぎません。取り付けるギター次第で過去の失敗を繰り返してしまいます。特徴を活かすためには、Kahler搭載を前提にギター自体を設計したギターがベストですし、出荷時点で専門家が最適な状態にセッティングし、さらにプレイヤーが自身に合うようにローカライズしてこそメリットを発揮します。
■Kahler搭載を前提としたKz Oneの設計と出荷時点での最適な調整
Kz Oneでは、Kahlerを搭載してもギターの鳴りは重視、同時にメリットであるスムースな動きをフィーチャーした生産、調整の上、出荷しています。
[ボディ]
トレモロ機構があるユニットでは、サステインのロスは避けられません。しかし、Kz Oneではロスを最小限にするため、対策として、ボディのザグリを必要最小限にした専用設計。フラットなボディ・トップにKahlerの底面を4つのネジでしっかりと圧着しています。
▲Kz Oneは設計当初からKahlerをトップに圧着することを前提に設計しています。これにより弦の振動をできるだけ損なわないようにしています。不要となったファイン・チューナーがないため、すっきりとしたルックスも特徴です。
▲Kahlerを装着するためのボディのザグリ穴です。必要最小限のザグリ加工に留め、ボディとブリッジの圧着面をできるだけ大きくする配慮をしています。
[ヘッド/ナット/チューナー]
Kahlerはサドルがローラーになっており、弦のスムーズな移動をサポートしています。その設計思想を受け、ギター側でもヘッドとナットを設計しました。
Kz Oneは3対3のヘッドですが、これはナットとチューナーのポストが、ほぼストレートかつ適度なテンションが得られる位置を計算し、配置しました。また、ナット上の弦の切りこみには細心の注意を払っています。この部分は設計以上に重要なポイントです。
ゴトー製のロック式チューナーを採用しています。これは80年代には存在しなかったパーツです。Kz Oneでは標準仕様のロックナットを完全に排除しました。これにより、かつての悪評を根源から絶ち、Kahlerの魅力を具現化しました。
▲Kahler標準のロックナットを使用せず、現代のパーツであるロック式ペグを組み合わせています。また、ヘッドも設計時に弦がほぼ直線で、適度なテンションがかけられる位置にチューナーのポストを配置しています。さらに、なめらかなアーム操作とチューニングの安定性を確保するために、細心の注意を払いながらナット部の切りこみ加工をしています。
[構造を理解した上での調整]
さらに弊社では出荷時に丁寧に調整をしています。特にKahlerは弦のボールエンドとサドルの角度が浅くなりがちです。ローラーを使ったサドルなので、角度が浅いと力が加わらないためサウンド全体に影響してしまうのです。弊社ではサドルを高めに設定し、角度を強めています。ブリッジに弦を押し付ける方法です。これにより、ロスを抑え、ボディ全体に振動がいきわたるようにしています。
また、カムをボディと平行にセッティング。他にもイントネーション/トルク/弦高なども調整しています。
▲Kahler搭載のKz Oneではサドル全体を高めに設定。さらに演奏性とサウンドを考慮し、各サドルの高さをそれぞれ適正な高さにセッティングして出荷しています。
▲アーム・バーが付いている部分が「カム」というパーツです。これをボディと平行にセッティングしています。
いくら「できる」「可能」と謳っていても、基本のセッティングが正しくなければ、複雑な機構を持つKahlerのポテンシャルは引きだせません。Kz Oneは出荷時に全ての調整機能を正しいセッティングにした上で出荷しています。
[特製アーム・バー]
さらに、弊社のアーム・バーはKahlerに直接オーダーした特製品です。というのも、標準として用意されているバーは角度の関係で先端部がボディからかなり遠く、操作がしづらいのです。そのため、2018年以降は弊社専用の特製品をオーダーしています。
Kz One搭載用のバーは、角度を変更し、標準仕様に比べ、先端部が約15ミリ低く(ボディ寄り)なっています。これにより、操作性が大幅に向上し、Kz OneではKahlerらしい音程感ある演奏がしやすくなりました。
▲弊社が特注したアーム・バーを装着した状態です。バーの先端位置がKahler標準バーに比べ約15mm低くなっています。
■選べる3つのカラー
Kahlerには「クローム」「ゴールド」「ブラック」の3つのカラーがラインナップしています。
KGWのカスタムラインでは、3つのカラーからお好みのカラーのKahlerをお選びいただけます。ボティのカラーと組み合わせたコーディネートもお楽しみいただけます。
[クローム]
[ゴールド]
[ブラック]
これらの効果が組み合わされることで、Kz Oneを試奏したお客様からの「Kahlerを見直した」という評価をいただけているのだと思います。
今回は、Kahelerの特徴、Kz Oneへの搭載と弊社での調整についてご紹介しました。